2024年11月22日
かつて東京の地下鉄で聴けた発車ブザーの音を再現するおもちゃを自作しました。ここでは、目標とする音声を電子回路で作る方法を考え、実際に組み立てた様子を紹介します。
ひとつ前の記事では、地下鉄の発車ブザー音の成り立ちを調べるために、パソコンの中で音を再現しました。
その結果、周波数の近い2つの矩形波を生成し、好みの割合で合成できるようにすれば、似たような音声を再現できることが分かりました。
ここでは、目的とする音声を電子回路として実現する方法を考え、実際に組み立てを行います。
まず必要なのが、矩形波を生成する回路です。
振動する波形を作る回路は「発振回路」と呼ばれます。
以下のように、「シュミットトリガ回路」を内蔵したロジックICと、抵抗器とコンデンサを組み合わせると、簡単な矩形波発振回路を作ることができます。
ロジックICによる発振回路の例
この回路を使えば、可変抵抗器を操作することで、好みの周波数で矩形波を作ることができます。
この回路はとてもシンプルです。CQ出版社の記事(シュミット・トリガを使用した発振回路)では、発振の周波数を求める方法なども紹介されており、けっこう有名な発振回路でもあります。
一方でこの回路には、波形が「1」(ハイレベル)になっている時間と「0」(ローレベル)になっている時間がぴったり半分ずつとはならなかったり、周波数を細かく調整するのが難しかったり、電源電圧や出力側の回路が発振周波数に影響を与えることがあったり、といった問題があります。
少し大げさな対応とはなりますが、ワンチップマイコンを使って矩形波を作ることもできます。
マイコンのI/Oピンを出力に設定し、「1」と「0」を交互に出力すれば、矩形波とすることができます。
マイコンによるI/O回路の例
マイコンは、外部に接続した発振子の周波数に従って、一定の速度で命令を実行するので、発振する周波数を比較的正確に指定できます。回路を調整しなくても、プログラム次第で様々な周波数で発振することもできます。さらに、時間とともに出力が変化するメロディーのような出力も、プログラム次第で可能です。このように、マイコンには柔軟性という大きなメリットがあります。
マイコンのデメリットとしては、プログラムを別途作成する手間がかかることや、マイコンの価格次第ではコストがかかること、起動にやや時間がかかること、環境によっては起動や動作が確実にできるかに不安が生じる場合があること、などがあります。
今回の開発では、プログラムでいろいろ変化をつけられる柔軟性を重視して、マイコンで波形を作ることにします。
同じ回路でも、プログラムを変えることで別の駅のブザーにしたりできると、楽しそうです。
矩形波を2つ発生させたら、任意の割合で合成して、その結果を増幅してスピーカーを鳴らします。
矩形波を作る回路の2つの出力を合成し、増幅してスピーカーを鳴らす回路を以下に示します。
合成回路と増幅回路
合成は足し算となるため、オーディオアンプIC (NJM2113D)の入力に対し、信号を並列につなぐことで簡易的に足し算を実現します。
アンプの入力から見える、信号源の抵抗が、信号の増幅率に関わってくるので、マイコンの出力とアンプの入力の間に入れる抵抗器を、矩形波1つ毎に設け、可変抵抗器とすることで、任意の割合で波形を合成できるようにします。これらの可変抵抗器は、抵抗値を小さくするほど、大きな音となります。
なお、マイコンの出力側の抵抗値を極端に小さくすると、マイコンのI/Oピンに大電流が流れてマイコンを傷める可能性があります。ピン1つあたり25mAまでは流すことが認められているようですが、抵抗値は最低でも1kΩは確保して、電流は数ミリアンペアを上限としたほうがよいでしょう。
オーディオアンプICのフィードバック抵抗も可変抵抗器とすることで、全体の音量を調整できるようにしています。こちらの可変抵抗器は、抵抗値を大きくするほど増幅率が高まり、大きな音が出るようになります。
矩形波を作る回路、2つの矩形波を合成して増幅しスピーカーを鳴らす回路、さらに電源回路などを組み合わせ、試作する回路図にまとめたものを、以下に示します。
地下鉄ブザーの回路図全体
電源は単3形電池2本で3Vとしました。
マイコンは8ピンのPIC12F1822を使います。ややオーバースペックですが、使用可能な電源電圧の幅が1.8~5.5Vと広いことを重視しました。開発当時、秋月電子通商では1個200円でした。
オーディオアンプは、2Vから動作可能でスピーカー出力側にコンデンサが不要(差動出力タイプ)なNJM2113Dを使いました。秋月電子通商では1個60円でした。
回路を間違えてショートさせた時に備え、リセッタブルヒューズを付けています。
また、スピーカーは秋月電子通商で300円で売られていた8Ω10Wのものを使用しています。このスピーカーは、直径77ミリと小ぶりですが、磁石の部分がひじょうに大きく、パワーがありそうな気がします。
スピーカーの様子
電源スイッチで電源を切ったときに、電源用のコンデンサにたまった電気を100Ωの抵抗器で放電するようにしています。こうすることで、マイコンの電源電圧が速やかに下がり、次回電源を入れたときに、正しく起動できるようになります。
なお、回路図で線が交わっているところでは、読み方に注意が必要です。交わっているところに黒く塗った丸「●」がついているところでは、縦の線と横の線がつながっています。一方で、単に線が交わっているだけの表記であれば、縦の線と横の線は接続されていません。
回路の設計ができたら、次は部品集めと組み立てです。
今回の試作に必要な部品は、以下の表のとおりです。
試作したタイミングでは、いずれも秋葉原の電子部品店 秋月電子通商 で入手可能な部品となっています。
なお、マイコンにプログラムを書き込むためには、別途開発用のパソコンと、プログラム書込用の装置が必要となります。
部品表
No | 品名 | 数量 |
---|---|---|
1 | セラミック発振子4.00MHz (コンデンサ内蔵3本足タイプ) | 1 |
2 | マイコン PIC12F1822 | 1 |
3 | 抵抗器 10kΩ | 1 |
4 | 積層セラミックコンデンサ 0.1μF | 1 |
5 | 可変抵抗器47kΩ Bカーブ | 3 |
6 | フィルムコンデンサ 1μF | 1 |
7 | 電解コンデンサ 1μF | 1 |
8 | 電解コンデンサ 4.7μF | 1 |
9 | オーディオアンプIC NJM2113D | 1 |
10 | スピーカー 8Ω | 1 |
11 | 電解コンデンサ 470μF | 1 |
12 | 抵抗器 100Ω | 1 |
13 | 基板用トグルスイッチ1回路3ピン | 1 |
14 | リセッタブルヒューズ0.25A (約0.5Aでトリップ) | 1 |
15 | 電池ボックス 単3形2本用 リード線付 | 1 |
16 | 単3形アルカリ乾電池 | 2 |
17 | ICソケット8ピンタイプ | 2 |
18 | ユニバーサル基板 (秋月電子通商の片面C基板 2.54mmピッチ) | 1 |
19 | 錫メッキ線 | 少々 |
C3は、かかる電圧がプラスにもマイナスにもなりうるため、極性のないコンデンサを使う必要があります。今回は、音声の伝送に適したフィルムコンデンサとしました。
次に、部品の配置を考えます。秋月電子通商で売っている片面ユニバーサル基板「Cタイプ」には、2.54mmピッチで縦に25個、横に15個の穴があります。部品は、この範囲内で配置する必要があります。
音声信号が合成され、オーディオアンプICに入力されるまでの経路はなるべく短くしたかったので、以下の配置となりました。
部品の配置予定図
そして、組み上がった結果がこちらです。写真は、撮影の都合により、回路図から反時計回りに90度回転した状態になっています。
できあがった回路
なかなかコンパクトにまとまっています。ただし、電解コンデンサが密集しすぎていて、やや足が浮いているところもあります。もう少し余裕を持った配置にしたほうがよかったのかもしれません。
設計時から部品の位置が1マスずれてしまいました。基板の大きさには余裕があるので問題はありませんが、もう少し落ち着いて組み立てるべきだったかもしれません。
基板を裏側から見ると、こんな感じです。
基板の裏側
スピーカーを含めると、このような形に仕上がっています。
できあがりの全体
スピーカーのケーブルの先にコネクタがついていたので、基板側に秋月電子通商で買った「ピンヘッダー」を取り付け、コネクタと接続できるようにしました。コネクタとピンヘッダーは、導通はしているものの、ぴったりと固定されてはいません。きちんと固定したい場合は、スピーカー側のコネクタと合うコネクタを買ってくるか、スピーカーのケーブルをピンヘッダと対になる「ピンソケット」につなぎ直したほうがよいでしょう。
なお、電子工作を行うと、やけどや火災などの事故が起きる可能性があります。実際に製作するときは、ご自身の責任でお願いします。作者は、トラブルが発生しても責任を負うことはできません。
次の記事では、マイコンのプログラムを作成し、実際に地下鉄のブザーの音を出せるようにします。
製作・著作:杉原 俊雄(すぎはら としお)
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