2024年11月22日
かつて東京の地下鉄で聴けた発車ブザーの音を再現するおもちゃを電子工作として自作しました。ここではまず、本物のブザーの音を聴いて、パソコンの中で再現する方法を考えます。
東京の地下鉄のホームではかつて、電車の発車が近づくと、独特のうなりを伴ったブザーが鳴っていました。
東京の地下鉄は当時「営団地下鉄」と呼ばれていたことから、このブザーを「営団ブザー」と呼ぶ人もいます。
地下鉄のブザーの音を収集している方もいるようで、例えばYoutube動画 「【営団ブザー】 東京メトロ 発車ブザー集 (75駅176ホーム分)」では、多くの駅で収録されたブザーの音を楽しめます。今はもう聴けない駅のブザーも収録されており、素晴らしい動画です。
この音と同じような音が出るおもちゃがあったら面白いと思うのですが、調べた限りでは見当たりません。ない物は、作ってみたくなるものです。地下鉄のブザーを電子工作として自作することにしました。
まず最初に、パソコンの中で地下鉄のブザーに近い音を再現することを考えてみます。上記Youtube動画のはじめのほうで聴くことができる、「渋谷1番線(新)」や「渋谷2番線(新)」の音を参考に、考えてみました。
パソコンを使い、音声波形を作ったり編集したりできるAudacityというフリーソフトで、渋谷駅のブザーの音を再現することを試みます。
Audacityの画面
まずは試しに、渋谷駅のブザーと同じくらいの高さの音で、矩形波(方形波)を作ってみました。周波数は530Hzで、波形は以下のような感じです。
530Hzの矩形波 (アンチエイリアス適用済)
音声としては、以下のデータとなります。
音の高さは渋谷駅のブザーに近いけれど、雰囲気が本物とは違うようです。本物の音には「うなり」があり、空間全体に響き渡るような独特の雰囲気があります。
「うなり」は、周波数が近い音を2つ重ねると発生します。例えば、530Hzの音と536Hzの音を重ねて出すと、1秒間に6回うなるはずです。そのように音声を合成したところ、以下のような音になりました。
上段:530Hz, 中段:536Hz, 下段:合成後の波形
上段と中段の波形はそれぞれ、530Hzと536Hzの矩形波です。それらを合成すると下段の波形となります。音声データは合成後の波形によるものです。
合成後の波形は、強くなったり弱くなったりしていて、うなる感じが出ています。
合成後の音声を聴くと、確かにうなっていて地下鉄っぽくなっています。
上記では、2つの矩形波を同じ強さで合成しましたが、そうすると、2つの波が打ち消し合うタイミングでは音量が0に近くとなり、音が途切れ途切れとなってしまいます。
2つの音の強さを変えて合成すると、うなりが弱くなり、波形が小さくなったときに音が完全に途切れてしまうことを防げます。
536Hzの波形の高さを、530Hzの波形の半分にして合成した結果が、以下の音声です。
上段:530Hz, 中段:振幅半分の536Hz, 下段:合成後の波形
こちらのほうが、うなりが弱い音になっています。波形を見ると、音が弱くなっているところでも、振幅がある程度維持されていることが分かります。
地下鉄のブザーでも、このように聞こえる駅があるかもしれません。
実際に地下鉄の駅に設置されていたブザーが、どのような仕組みになっているかは分かりませんが、家庭で気軽に再現するのであれば、これくらいでいいのかなという気がします。
以上のことをまとめると、地下鉄のブザーの音を再現するには、以下のようにすればよいと分かりました。
約530Hzの矩形波をベースにする。
数ヘルツずれた音、例えば536Hzの音を、530Hzの音と同時に鳴らすと、うなりが出て地下鉄のブザーらしくなる。
うなりの強さは、2つの音を混ぜ合わせる割合を変えることで、変化させることができる。
従って、530Hz付近で周波数が少し異なる2つの矩形波を作り、それらを好みの割合で混ぜ合わせる電子回路を作れば、地下鉄のブザーの音を再現するおもちゃが作れそうです。
製作・著作:杉原 俊雄(すぎはら としお)
(c)2024 Toshio Sugihara. All rights reserved.