2015年3月1日
異世界からもたらされた力で変身して、悪の世界と戦うというファンタジー作品「プリキュア」シリーズが、もうひとつ「大きな嘘」を加えて帰ってきた。「プリンセスになりたい」って何なんだろうか?
ファンタジー作品では、「大きな嘘」はつくけど、「小さな嘘」は避けるという傾向がある。
そうしたほうが、登場人物の行動にリアリティーが出て、納得感のある楽しい作品にできるからだ。
プリキュアシリーズでは、主人公たちが変身して、世界制服をたくらむ悪い人たちと戦う。これは、どう考えても現実にはありえないうそだ。これを、大きな嘘という。大きな嘘は、ファンタジー作品では欠かせない要素で、作品の大きな魅力になっている。
「Go!プリンセスプリキュア」は、「ホープキングダム」「ディスダーク」といった架空の組織を設け、それらを現実の世界と干渉させることで、主人公たちが、日常生活の中で非現実的な事件に巻き込まれる物語になっている。
一方で、学園生活での課外活動や、学生寮の生徒自身による自主的な運営などは、相当デフォルメされてはいるものの、いかにも現実的に、リアルに描かれている。
このような表現方法は、エブリディ・マジックと呼ばれる。
犬(のような姿をした妖精)を寮で飼うために、寮生たちの支持を集めることに奮闘したり、モデルとしての忙しいスケジュールを見学して感心したりと、主人公たちはリアルな日常もせいいっぱい生きているので、理不尽な事件に巻き込まれたときにも、リアリティーのある表現ができるのだ。
従って、日常生活の描写では、リアリティーに忠実な表現が求められる。これを「小さな嘘はつかない」などと呼び、表現の約束事とすることもある。
これまでのプリキュアシリーズであれば、上記の説明で十分だったのだが、「Go!プリンセスプリキュア」では、もうひとつ、大きなうそを盛り込んでいる。
主人公の「はるか」(中学1年生)が、絵本に描かれているような「プリンセスになりたい」という夢を持っているところだ。
絵本の中のプリンセスに実際になりたいと、中学生が本気で思うことは、ふつうはない。
幼稚園児や低学年の小学生だとしても、絵本の中の世界と現実の世界が違うことくらいは知っているはずだ。
それなのに、あえてはるかに、「プリンセスになりたい」と大きな声で言わせる。これは、プリキュアシリーズとしては、新しい表現だ。
幼稚園児の頃の「はるか」は、絵本の世界を夢見ていて、周囲に笑われながらもその夢を捨てなかったが、その夢が、中学生になっても、そのままの形で続いているところがすごい。
主な視聴者層が未就学児だからとはいえ、幼年期の夢を、そのまま中学生の主人公に持ち込んだのは、新しい表現だと思う。
全寮制の中学校に通いながら「プリンセス」を目指すとは、果たして何を意味しているのだろうか?
ヒロインが変身した状態を「プリンセスプリキュア」というが、それだけで「真のプリンセス」になれたわけではないことが、劇中で言及されている。
「つよく、やさしく、美しく」という言葉で象徴される「真のプリンセス」とは何かを追い求めることも、主人公たちの一年間を通した目標の一つなのかもしれない。
強い戦士になって世界を救うという従来通りの路線と、真のプリンセスになるという新しい路線を、同時並行に描くことで、番組がどう展開していくかが、見どころだ。
プリンセス修行を主導するとみられるミス・シャムールがどんな役目を果たしていくのかが、物語の進行の鍵を握っているかもしれない。
これはもう、放送を楽しみに待つしかない。
「Go!プリンセスプリキュア」が、「プリンセスになりたい」という願望を強く盛り込んだ背景には、他のアニメ番組の影響も考えられる。
「レディジュエルペット」では、素敵なレディになるために、寮生活を送る少女たちの物語を描いていたけれども、全寮制の学校で上品な生き方を目指す「Go!プリンセスプリキュア」には、設定にいくらかの共通点がある。
テレビ番組というのはいつも、何かしら時代の流行や空気感を反映しているものなのである。
プリキュアシリーズのようなファンタジー作品では、大きな嘘は、怪物と戦うヒロインが活躍することだけにとどまらない。
怪物が街であばれても、プリキュアが退治してしまえば、大人たちの社会や他の生徒たちがそれほど関心を示さなかったり、主人公たちがいつも行動をともにしていて、授業や普段の生活による成長の描写がほとんど省略されていたりと、ご都合主義の設定はたくさんある。
主役は中学生だが、その言動が、主要な視聴者である幼児から小学生に合わせられていて、やたらと単純明快な考え方で動いている点も、子ども向け番組の宿命だ。
そうやって、作品世界をやや極端なくらいに単純化することで、言いたいことを絞った分かりやすい作品が生まれていると考えたい。
ヒロインが活躍するテレビ番組で、現実とは明らかに違う設定を探してみましょう。変身したり、異世界から妖精がやって来たりと、様々な「大きな嘘」が盛り込まれているようです。
「大きな嘘」を支えるために、劇中で暗黙の了解とされていることを調べてみましょう。「怪物が暴れても、自衛隊が出動しない」「生徒たちや街の人々は、怪物が倒された後は、そのことをあまり話題にしない」など、様々な嘘を前提に、物語は組み立てられているようです。
あえてファンタジーにせずに、リアルに描かれている要素を探してみましょう。お店を切り盛りする様子や、部活動での練習など、様々な場面があるようです。
リアルな描写と、嘘の描写がどのように交わり合っているのかを、調べてみましょう。現実的な生活描写と、いかにもファンタジーな事件を混ぜ合わせることで、テーマをうまく引き立てる流れを、探してみましょう。
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