更新:2014年12月1日 作成:2014年9月1日
アニメ番組に挿入される3DCGによるダンスシーンでは、床面にキャラクターの影が映る。アイカツ・プリキュア・プリパラ等の番組により、描写に違いがあり、ちょっとした見どころになっている。
アニメ番組の途中や最後で、歌ったり踊ったりするダンスシーンが放送されることが多くなってきた。
ダンスシーンはたいてい、3DCGにより作られており、鮮やかなステージでキャラクターたちが華やかに歌って踊る。
3DCGでは、キャラクターや背景の形だけでなく、光の陰影もコンピュータで計算して描いており、床面には独特の影が映る。
床に映る影や、床にキャラクターが写り込むテカリは、映像に独特の雰囲気を加え、作品の面白さをアップさせている。
図:影とテカリのイラスト
影は、照明(光源)の裏側で、暗く見える部分だ。照明が太陽光線や通常のライトであれば、影はグレーっぽく見えることが多い。
照明の位置や台数に応じて、キャラクターの輪郭がくっきり見える場合もあれば、足元だけがわずかにぼんやりと暗く見えたりすることもある。
照明の当て方によっては、影が複数できたり、床の凹凸によって影の形が変わったり、影に色がついたりすることもあり、面白い。
床が、テカる素材でできていると、キャラクターの形がうっすらと床面に見えることがある。
床に塗ったワックスが、鏡の役割をして、キャラクターを見せているようなイメージだ。
キャラクターの輪郭がくっきり映る場合は、鏡のように平らな床、くしゃくしゃにゆがんで見える場合は、レコードの盤面のような凹凸がある床、というふうに、床の質感が伝わってくる。
アイカツのダンスシーンでは、キャラクターの影は、くっきりとした輪郭を持っていることが多い。
1話でいちごが踊る場面や、97話であかりが踊る場面は、ステージが屋外っぽいこともあってか、くっきりと影が映る。
キャラクターが踊れば、手足の動きに従って、影も動く。影の動きは、キャラクターの動きと一体化しているので、ダンスのアクションを、より鮮明に見せてくれる。
屋内照明でも、影が1本で、形がくっきりしているのが、アイカツの特徴だ。例えば50話の「Moonlight destiny」では、ランウェイの両側に観客がいるので、照明はおそらく複数の方向から当てているだろうと思いきや、影は1本しか出ていないし、形もはっきりしている。
キャラクターの動きをはっきり見たい番組なので、あえて光を四方八方から当てない場合の影を見せているのかもしれない。(50話の「Moonlight destiny」は、後半でスポットライトを浴びたときの影が、なかなかの見どころだったりする。)
ダンス中は、アイドルはオーラを放つことになっているので、体の周囲に発光体が飛び交う。このうち、床面に現れるオーラには、単に発光するだけでなく、キャラクターの輪郭を反射し、テカって見えるものもあるようだ。
オーラは、単に光を放つだけでなく、アイドルの輝きを映し出すのである。
影の表現には、メリハリがある。踊っているキャラクターには影が出るが、観客には影がない。観客に対しては、リアリティーをそれほど求めていないことの裏返しだろうか。
スペシャルアピールの場面では、踊っているキャラクターに対しても、影が出なくなる。例えば、97話での「キュートフラッシュ」の場面では、空中に浮かび上がる場面だけでなく、ハートに腰をかけて、ポーズを決める場面でも、背景に影の描写はない。
スペシャルアピールでは、リアリティーを少し外れて、異空間っぽい世界に飛び込んだ不思議さを感じるのは、影がないからかもしれない。
このように、アイカツでは、影のシルエットがしっかりしているので、キャラクターの動きの面白さを、より深く楽しめる。ダンスの技量が見せ場の番組だけのことはある。また、スペシャルアピールでは、あえて影を消すことで、リアリティーを少し外れた、幻想的な見せ場を作っている。
ちなみに、放送を重ねるにつれ、アイカツでの影の描写は、多様性を持つようになってきた。
102話以降の第3シリーズでは、まんべんなく様々な方向から光が当たるステージでは、影を4方向に出すことが多くなった。
スポットを浴びている間だけは一時的に影を1本に減らしたり、水面に映る影を描写したりと、影にまつわる凝った演出も増加している。
さらに、床だけでなく、衣類にもテカリのパラメータがはっきりとつくようになり、衣装が照明や周囲の光を反射して、きらめくような描写が増えている。
3DCGは、進歩が早い分野だけに、見ていて飽きない。
プリキュアのエンディングに流れる3DCGの映像では、キャラクターの影やテカリが背景に映る。
プリキュアでは、照明の条件や、床の素材に応じて、影やテカリの表現に大きな幅があることが特徴だ。
例えば、一人のキャラクターに対して、複数の影が描かれる描写がある。
ハピネスチャージプリキュアの後期エンディングテーマ「パーティーハズカム」では、天井に複数の照明器具が映る場面があり、キャラクターの足元から、様々な方向に向かって、色のついた影が伸びている様子が見える。
照明を様々な方向から当てれば、影も様々な方向に伸びるので、物理的に利にかなった表現だ。
「パーティーハズカム」で、影に色が出ているのは、天井の照明そのものが、少し色を帯びているからのようだ。色のついた光を当てると、影の部分は、反対の色を帯びているように見える。
影の輪郭が、ギザギザになる描写もある。
ハピネスチャージプリキュアの前期エンディングテーマ「プリキュア・メモリ」では、草原でダンスをする場面で、影が草原に映る。草一本一本の輪郭が、影の形に反映されるので、影の輪郭はギザギザに見える。日が傾いているので、影が印象深く見えて、面白い。
影が出ない場面もある。
例えば、ハピネスチャージプリキュアの前期エンディングテーマ「プリキュア・メモリ」では、冒頭の部分がマンガチックなドラマになっているが、ここではキャラクターが背景とマッチしていないので、背景には影が描かれていない。ただし、ときおりマンガ的な影の描写がある。
マンガの世界では、物理的なリアリティーは追求しないので、あえてリアルな影は描かないようである。
屋外の描写になると、影は1つだけ、くっきりとした輪郭で描かれる。一方で、屋内で照明が何台もある状況だと、影の輪郭は目立たなくなる。そして、床自体が光ると、天井の照明による陰影が目立たなくなり、床の影は見えなくなってしまう。
このように、影の表現は、場面に応じて様々な方法を使い分けている。
床のテカリは、「フレッシュプリキュア」の前期エンディングテーマ「You make me happy!」をはじめとする多くの作品で、使われている。
床の素材感が、テカリから読み取れることがある。「You make me happy!」では、床にキャラクターの形がくっきりと映るので、床は鏡のような平面だと分かる。一方で、「スイートプリキュア」の前期エンディング「ワンダフル↑パワフル↑ミュージック!!」では、レコードの溝がある面がテカっているせいか、テカリの輪郭がギザギザになっている。
このように、プリキュアシリーズでは、影やテカリの描写に、多様性がある。照明の台数や光の色、床の質感まで、影やテカリに反映されており、リアリティーが高い。半年に1回しか作られない映像作品だけに、細かいところまでこだわっているのかもしれない。
プリパラの世界では、思わぬところを発光させ、影の見せ方に個性を持たせている。
その極めつけが、衣装そのものが発光する「サイリウムチェンジ」だ。衣装が光ることを見せたいので、天井からの照明は控えており、床に影はあまり出ない。
一方で、衣装そのものを光らせるだけでは、顔などが見えなくなってしまうので、床を光らせて肌を照らしている。床は、全体が光っているわけではないので、床の光っていない部分には、足の位置に応じて長い影ができる。
顔や手足などの肌は、光を下から当てるだけだと、本来はひどく怖い感じになると思うのだが、映像としては顔や手足には均一に光が当たるように見せている。
物理的に正しい描写をすれば、お化け屋敷のような映像にしたほうがリアルなのだろうけれども、あくまでアイドルの歌とダンスを見せる番組なので、かわいく見えるようにデフォルメしているのだろう。
サイリウムチェンジ以外の場面では、床に映る影は、足元がわずかに暗くなるだけで、体の輪郭は見えない。
四方八方から照明を当てているので、床には体のシルエットは見えないということか。
床そのものがかなり明るく、照明で照らし出されているというよりは、床そのものが発光しているように見える。その分、天井の照明による影が目立たないのかもしれない。
照明器具だけでなく、衣装から床まで、何もかもが光を放つのが、プリパラの世界なのだ。
「メイキングドラマ、スイッチオン」の場面(アイカツでいう「スペシャルアピール」のような場面)では、キャラクターの影はおおむね背景に現れなくなる。現実感が低下し、異世界に飛び込んだような雰囲気が出る点は、アイカツのスペシャルアピールと共通だ。
ときおり、テカリを見せる床を歩くことがある。2話の「メイキングドラマ・スイッチオン」では、「ダンスと!」の場面で床がテカっている。鏡の上で踊っているような質感だ。
このように、プリパラの世界では、後発の番組だということもあってか、照明の当て方や影の見せ方に、今までにないチャレンジが感じられる。これから先も、何か面白い表現が試されるかもしれない。
テレビアニメの3DCGのシーンでは、背景だけでなく、キャラクター自身にも影が現れます。影の様子から、照明がどのように当たっているのか推し量ってみましょう。
ちなみに、「プリパラ」では、手に持っているマイクの影が、衣装にリアルに投影されるので、なんとなく光の当たり具合を想像できます。
マンガや、手書きのアニメで、影がどのように描かれているか調べてみましょう。肌や衣類が、2色程度で塗り分けられている場合が多いですが、最低限の塗り分けで、立体感を見せる技術は、圧倒的だったりします。
アニメやマンガでは、登場人物の気持ちや場面の雰囲気を、光や影の描写で表現していることがよくあります。また、ダンスシーンでは、光の当て方が、視聴者に場面の面白さを分かりやすく見せるために工夫されていることが多いです。そのような、光と影が見せる演出を楽しんでみましょう。
リアルな世界で、影を見つけましょう。屋外で見える自分の影や、蛍光灯の下にできるテーブルの影などを見ていると「どうしてこんなふうに見えるの?」と不思議に思えてくることも多いことでしょう。
ちなみに、私が普段通っているところでは、節電のため、昼休みは照明を消していますが、パソコンのモニタがついていると、モニタの青っぽい光が顔に映って、お化け屋敷みたいな雰囲気を見せる人が、ときどきいます。光の当て方次第で、人間は大きく違って見えるようです。
3DCGで、影を描画するための技術には、http://news.mynavi.jp/column/graphics/001/みたいなのがあるようで、たいへん奥が深いです。最近の3DCGのソフトには、このような技術が最初から入っているのかもしれませんが、何を見せたいかの意図から、使う技術を選ぶだけでも、なかなかたいへんそうな世界に見えます。
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製作・著作:杉原 俊雄(すぎはら としお)
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