2013年8月13日
やばい。また「アニメージュ」(徳間書店刊のアニメ雑誌;2013年9月号)を買ってしまった。
水着姿の男性が並ぶクリアファイル、花畑で肩をもむ女性を描いたポスターなど、濃い付録や記事がつまっていて、アニメが好きな人が求める物事のつぼを押さえている。
コンテンツに求められる魅力とは何なのだろうか、と逆に考えさせられる面もある。
アニメ雑誌を見て、まず目に入るのは、キャラクターの絵だ。
表紙から付録、特集記事まで、フルカラーのイラストが目白押しだ。
比較的薄い雑誌なのに、880円と高価な理由には、凝った印刷のページが多いこともあるのかもしれない。
普段テレビの画面で楽しんでいる映像を、紙に印刷した絵にすると、また魅力がある。じっくり表情を眺めたり、色合いを楽しんだりと、止まっている絵にも、魅力があるのだ。
興味のある作品だと、他の媒体でも見たくなるという、アニメファンの心理をよくおさえている。
「テレビ」「紙」「ゲームソフト」「音楽ソフト」など、様々な媒体で1つの作品を展開することを「メディアミックス」という。そうやって多くのメディアで展開すると、消費者が次々と商品を買うので、利益が上がる。
メディアミックスは、アニメファンの心理を、上手に商売に利用しているといえる。というか、アニメ番組は、視聴自体は無料なので、こうしない限りお金を稼ぎようがないという事情もある。
掲載されているキャラクターの表情は、笑顔で愛嬌を振りまいている少女、闘争心をあらわにした青年、アカンベーをしている男の子など、実にさまざまだ。
作品に多様性があることの現れだろう。こういう雑誌に魅力があるのは、紹介されている作品に魅力があってこそのことだと実感する。作品に魅力がなかったら、メディアミックスの成功はありえない。
アニメ雑誌の記事は、多くが作品の紹介記事だ。
記事は、作る側への発信ではない。市場規模や売上目標とか、メディアミックス戦略、外注管理の極意、スポンサー確保の苦労話、みたいな業界ネタは、ほとんど載っていない。
企画の立て方やシナリオの書き方、色彩設計の基本、人物の描き方、みたいな、作る技術に関する記事も、ほとんどない。(ときどきイラストの描き方が紹介されることもある。)
あくまで、消費者に対する発信に徹している。
記事は、ファンが喜びそうな話題を、好意的に取り上げることが基本だ。
作品を現代の世相に当てはめるような論評は、ほとんど行われない。
この姿勢は、ゲーム雑誌に似ている。記事は、広告と表裏一体なのだ。
記事の文章は、おおむね以下の2種類に分かれる。
作品の内容の紹介
これから放送される作品に、どんな魅力があるのかを紹介する文章が多い。
既に放送が始まっている作品では、登場人物の紹介や、あらすじのまとめなどを、イラストを交えて紹介していることも多い。
見たい作品を選ぶためには、興味を持てる内容だ。
既に見ている作品でも、上手に紹介をまとめてあるので、話の流れを復習できたりする。
インターネット上の番組公式サイトと比べると、少々踏み込んだ内容があるところが、アドバンテージになっている。
表現はあくまで、作品の宣伝に徹している。アニメを楽しく見たいと考える消費者に、各作品がアピールをする場になっている。
さながら、選挙公報の趣がある。選挙公報は、政党の魅力のアピールと、候補者という登場人物を紹介しているから。
製作者からファンへのメッセージを集めたインタビュー
監督やキャラクターデザイン担当者などにインタビューをして、作品にどんな気持ちを込めたかを紹介している。
アニメ番組を見ていると、シナリオを書いた人や、絵を描いた人が、作品にどんな意図を込めたかを知りたくなることが多い。
さらには、歌手や俳優と同様に、作品を作っている人のファンになる視聴者も、それなりにいると思う。
そういう、作品にもっと近づきたいという視聴者の欲求にこたえるのが、インタビューの記事だ。
作り手の意図が見えてくると、作品をもっと楽しめるような気がしてくるのが、読者の満足感だ。つい、録画をもう一度見てしまったりする。
作品の世界観は、人間が世界をとらえる上での考え方なので、記事を読みながら、読者自身の、現実に対する世界観を広げようと考えてしまったりもする。
なお、作り手から消費者へのアピールなので、業界を目指す人へのメッセージなどは、あまり書かれていない。
作品への支持を訴える、政見放送みたいな趣を、少しだけ感じる。
どんな内容の記事であれ、カラーのイラストに重ねて描かれる傾向がある。
文字に色がついていたり、記事の途中から文字の色が反転したりと、芸術系の雑誌らしいデザインになっているのが、見た目にも面白い。
ときには、小説やマンガなど、作品そのものが掲載されていることもある。
ただし、あくまで作品を紹介する媒体であり、作品そのものを連載する雑誌にはなっていない。
アニメ雑誌には、実に充実した投稿コーナーがある。
アニメを愛する気持ちをつづった文章から、各種イラストまで、一部はカラーで紹介している。
アニメ番組は、自宅でじっくり見ることが多いので、誰かと一緒に感想を言い合いながらというわけにはいかない人も多い。
今でこそ、インターネットで感想を交換する人も多いけれども、雑誌では、テーマを決めて上手にまとめたり、きちんと権利を処理した上で投稿されたイラストを載せたりしているので、それなりに存在感のあるコミュニケーションの場になっている。
視聴者には、感想を共有したくなる気持ちがあるので、そんな気持ちを後押しさせるような作品が、うけるのかもしれない。
アニメ雑誌に取り上げられる作品は、アニメ番組全てというわけではない。
深夜アニメの記事が多い。
幼児や小学生に向けた作品(「ドラえもん」「ポケットモンスター」など)は、ほとんど扱われないし、家族で楽しむとされる作品(「サザエさん」など)もほとんど見ない。
投稿コーナーには、投稿者の年齢が書かれているが、大部分が中高生なので、読者層もそれくらいなのかもしれない。
必然的に、中高生が興味を持つ作品を中心に扱う誌面となるようだ。
アニメ雑誌の番組表には、放送予定のアニメ番組がぎっしりと紹介されている。
通常のテレビ雑誌とは異なり、主要なスタッフまで一覧表にしてまとめてある。
活躍している脚本家が、いくつもの番組を掛け持ちいていることや、今放送されているアニメ番組が50種類以上あることなど、ぼんやりと読みながらも感じることは多い。
各作品のおおまかなあらすじも紹介されているので、作品の傾向から、時代の雰囲気を感じてみるのも楽しいだろう。
アニメ雑誌にも、それなりに、広告が掲載されている。
以下のような広告が多い。
アニメ作品のDVDや人形(フィギュア)などの広告
テレビアニメは、視聴するだけなら無料の場合がほとんどなので、収入は映像をDVDで売ったり、人形やゲームなどのおもちゃを売ったりして確保することが多い。
アニメ雑誌を読む人は、そのような商品を最も買いそうな人たちなので、広告にも気合いが入るというものだろう。
ただし、読者層が中学生以上なので、幼児や小学生向けのおもちゃの広告は、アニメージュには載らないようだ。
アニメ映画の広告
それなりのイラストを伴って、映画の紹介記事が出ることが多い。
連載形式で繰り返し掲載される、企画物の広告もあり、こちらもかなり力が入っている。
アニメに関係する専門学校の広告
アニメの作り手側へ向けた記事はほとんどないにも関わらず、作り手を目指すための専門学校の広告が、かなり多く見られる。
作り手を目指す人は、消費者としてアニメの面白さをよく知っている人かもしれないから、それなりに効果のある広告なのだろう。
ちなみに、趣味も含めて、アニメの絵を描くための技術を紹介した本が、それなりの種類出版されている。
本気で作品を作りたいのであれば、そのような本を読んで研究してみるのもよいのだろう。私は純粋な消費者なので、こういう世界は分からないけれど。
アニメ雑誌を一通り眺めてみた結果、アニメを見ると、こんなことを求めたくなることが分かった。
アニメの作品を、紙に印刷された絵など、映像とは別の方法でも楽しみたい。
アニメを作った人の、作品への思いを知って、作品をもっと深く理解したい。あるいは、作品を作った人のファンとして、作り手にもっと近づきたい。
アニメが好きな人と、感想やイラストを見せ合って、交流を深めたい。
これから放送される作品の情報を集めて、見る番組を決めたい。
逆に言えば、次のことに留意すれば、アニメージュの読者が喜ぶ作品が作れるのかもしれない。
紙に印刷しても恥ずかしくない、魅力のある絵にする。
作品の世界をもっと知りたくなるような、魅力的なシナリオを作る。
番組を見たことを話題にしたくなるような、視聴者の心に響く内容にする。
番組を見たくなるような、視聴者の興味を引くテーマを取り入れる。
アニメの視聴者だからといって、アニメ雑誌を買う人ばかりではないので、上記の通りの番組だけが、よい作品とは言えないようだ。
サザエさんやドラえもんなど、アニメ雑誌ではほとんど紹介されない作品のほうが、視聴率はいい。
深く掘り下げたいと思わなくても、ぼんやりと見て、楽しさが伝わってくるだけで満足できれば、それで十部という番組も多い。
アニメ雑誌は、読者層の中高生向けに放送されているアニメ番組(主に深夜番組)に焦点を当てたもので、テレビアニメ全体の傾向を示すものではないことには、気をつけたほうがよさそうだ。
アニメ番組の好みには、男女差や、年齢による違いがある。
アニメ雑誌は、ある程度の年齢の幅を考え、さらに男女両方に向けた記事や付録をつけることが多い。
従って、個々の読者にとっては、自分の好みとは無関係な情報を目にすることも多い。
花畑に集う美少女と、プールサイドに集う水着姿の美男子が、同じ雑誌の付録になっているというのは、ある意味ものすごい話だ。
うっかり、本来は興味を示さないほうの作品にも、魅力を感じてしまうような気がしてくるのが、アニメ雑誌のあやしい魅力といえるのかもしれない。
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製作・著作:杉原 俊雄(すぎはら としお)
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