2012年8月19日
株式会社は株主のものとされるが、国内では株の取引の3分の1くらいは、コンピュータが自動的に行っているらしい。社会は誰のものなのだろうか?
経済のニュースでは、いつも株価の話が出てくる。
株を取引するときの値段を株価といい、毎日変わっている。これが、経済の指標になっている。
株は、正しくは「株式」といって、株式会社が人々からお金を集めるために発行する、切符のようなものだ。
株を持っていると、株主総会に出て、経営に参加できる。
株主総会で重要なことを決めるときは、持っている株の量を票のようにして、議決するらしい。
株主の人数で投票するのではなく、株の量の大小で投票するのは、持っている株の数が、会社を経営する権利の量とみなされるからだ。
お金を出して、株を買った人が、株式会社では一番偉い。
人気のある会社の株は、買いたい人がたくさんいるので、会社がもっとお金を必要としたときに、新しく発行する株は、たくさんの人が高く買ってくれるに違いない。
逆に、人気のない会社は、お金を集める能力が低いので、事業を拡大しにくいだろう。
だから、どの会社の株を買うかで、どの会社の事業が発展するかが決まってくる。
消費者に認められて、従業員も満足できる会社でないと、実際には長くは続かないのだろうけれど、事業に必要なお金を集めるための株は、会社を続けていくためには大切なのだ。
どの会社の株を買うかを決めるかは、役所ではない。
人々が自由に決められる。
こういう社会を、自由経済の社会というらしい。
お金を何に投じるかを自由に決められるから、人気がある商売にお金が集まり、社会が活性化するはずだ。
実際に株を売買する人の多くは、社会に役立つ事業を発展させたいというような崇高な目的ではなく、お金を儲けたくて株を買っているようだ。
株の値段は人気によって常に変化するので、安く買って高く売れば儲かるかもしれない。買ったり売ったりを繰り返さなくても、配当金をもらえれば、お金が儲かるかもしれない。しかし、値上がりすると思って買った株が値下がりしたり、会社が赤字で配当金を出さなかったりすれば、損をすることもある。
株の取引は、ゲームのようなものなのだ。
というか、「マネーゲーム」と呼ばれているので、ゲームそのままだったりする。
今の株取引は、コンピュータゲームに近い。
株を売ったり買ったりするには、証券会社に注文をする。
証券会社は、取引所に注文を伝えて、注文された株を売ったり買ったりして、顧客に渡す。
この仕組みは、コンピュータで行われるので、誰でも証券会社のネットにつながったパソコンを操作すれば、株を売ったり買ったりできる。
つまり、お金をかけてネットゲームをやっているようなものだ。
大切なお金を動かす操作なので、きっと緊張しながら、マウスやキーボードをいじっているに違いない。
パソコンを操作して株式を売買する注文を出して、お金を動かすのは人間、と思っていたら、最近はどうも、そうではなくなってきたようだ。
コンピュータが、プログラムに従って自動的に、売ったり買ったりする株を選んで、注文を出すようなシステムがあるらしい。
コンピュータで、株の値段や最新のニュースなどを監視して、コンピュータが算出した価値よりも、株の値段が安ければ買い、高ければ売るとかしているそうだ。
将棋やチェスではあるまいし、そんなことで人間を超える判断ができるわけないだろう、と思いきや、これですごく儲けた人がいるらしい。
そのためか、マネーゲームの世界では、コンピュータが自動的に操作する参加者であるNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が増えているそうだ。
NPCがゲームに勝つためには、判断を速くすることが大切らしい。
ミリ秒(1000分の1秒のこと)単位で戦略を決めて、ものすごく頻繁に取引するので、NPCによる取引は、「高速取引」とか、HFT(High-Frequency Trading)と呼ばれている。
最近では、コンピュータの判断の速さだけでなく、通信の速さも勝敗に影響を与えるとのことで、取引所のすぐ近くにコンピュータを置いたり、海底に光ファイバーを引いて超高速の通信回線を整備したりしているらしい。
日本では全体の3分の1くらい、アメリカでは全体の7割くらいが、NPCによる取引になっているそうだ。
もはや、マネーゲームは、秒単位の思考しかできない人間が遊んでも、楽しくないゲームになってしまったのだろうか。
コンピュータはプログラムに従って動作する。だから、取引のプログラムを書いた人が、世界の未来を決められる時代なのかもしれない。
ところが、話はそう簡単ではないらしい。
この手のプログラムは、1つのチームだけで書いているのではない。
しかも、チーム同士が協力し合っているのではなく、相手に損をさせて、自分だけが得をしたいと誰もが考えている世界だ。多数のプログラムが取引所の中で、毎日バトルをしているのだ。
そのバトルの結果がどうなるかは、プログラムを書いた本人たちにも分からないだろう。
NPCがネットゲームで対戦をして、勝ったほうがお金を受け取り、負けたほうがお金を払う。
これが、経済の主役になろうとしている。
バカじゃあるまいし、とは思うけれども、現実の社会がそうなっていると知ると、自分が住んでいる世界は、本当にリアルなものなのか、と疑いたくなってくる。
株の取引がドラクエXのようなネットゲームと違うのは、実際の社会に大きな影響を与えることだ。
ネットゲームが現実の世界に影響を与えるだなんて、安っぽいライトノベルのネタみたいだが、株取引では、本当に大きな影響が出る。
株を持つと、買った会社の経営を後押しすることになる。
どの会社を伸ばして、どの会社をなくすかは、とてつもなく大切な問題だ。限りある労働力や資源を、何に振り向ければよいかは、社会の運営の根幹をなす課題で、経済学はそのためにあるとも言われているほどだ。
今の世の中のことを、資本主義社会というくらいだから、資本を動かす株の売買は、社会の仕組みの根幹を握っている。
そういう大切なことを、人間に予想がつかないコンピュータ同士のバトルに任せてしまうと、社会がコンピュータにとって都合のよいものに作り替えられてしまいそうだ。
コンピュータがミリ秒(1000分の1秒)の単位で算出する価値が、社会を代表する価値となり、コンピュータが世界を支配してしまうのだ。
SF映画とかでは、コンピュータに世界が支配されることの恐ろしさを描いた作品がよくあったが、今はもう、本当にそういう世界になってしまっている。
「人類って、なんて愚かなんだろう」という、映画の感想が、目の前にある社会にそのまま当てはまってしまう時代になったのだ。
なんだこりゃ。
こんなことになってしまうのは、コンピュータを使って、楽をしてお金を儲けようとする、悪い人間たちのせいなのだろう。
その悪い人間たちに、年金の保険料よりもたくさんのお金を、老後に受け取ることをたくらんでいる私たちが含まれているところが、また、怖い話である。
株式市場の仕組みを調べてみよう。 東京証券取引所 は、日本を代表する株式の取引所だ。
生活に関する判断で、コンピュータに任せられることがあるかを考えてみよう。
例えば、ネットショッピングをするときに、商品名を入れると、一番安い値段のお店に自動的に注文を出すソフトがあったら、使うだろうか?
対戦型のゲームで遊んでみよう。将棋やポケモンバトルなどは、人間を相手にしても、コンピュータを相手にしても、楽しめるかもしれない。
コンピュータに取って都合のよい社会は、人間にとってどんな社会なのかを考えてみよう。既にそう変わりつつあるのかもしれないけれども。
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製作・著作:杉原 俊雄(すぎはら としお)
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