太陽電池と充電式電池で動き続ける充放電管理システム--ノンストップソーラーラジオ計画

更新:2007年1月10日
作成: 2006年8月2日


太陽電池と充電式電池を組み合わせて、昼夜ノンストップでラジオを鳴らし続けるシステムを計画中です。気まぐれな太陽から得られる電気を、限られた容量のバッテリーを使って蓄え、昼夜ラジオに電気を送り続けます。

充放電制御基板。PIC16F88を使用

太陽電池と充電式電池を組み合わせて電気を自給自足したい

太陽電池の普及が進み、屋根に紫色のパネルが輝いている家も、ちらほら見られるようになりました。

太陽電池は、光を電気に変える装置です。直射日光が当たる昼間は、手のひらサイズの数百円の太陽電池でも、スピーカー式ラジオを鳴らせるくらいの出力が得られます。

650円の太陽電池。公称2V0.5A

太陽電池は物理電池なので、電気を蓄えられません。雲で光がさえぎられたり、夜間の暗い時などは、十分な電気が得られず、ラジオなどの負荷は使えません。

そこで、昼間の明るいうちに電気を充電式電池にたくわえ、暗いときは充電式電池から電気を取り出して使う、というアイデアがあります。

このアイデアは、夜になるとピカピカ光るような道路標識などで、よく使われています。

エネルギーの流れは、こんな感じになります。

時間帯太陽電池充電式電池負荷(ラジオなど)
発電する充電主に太陽電池の電気を利用
休止放電充電式電池の電気を利用

実際には、曇りや雨で、十分に発電できない日もありますので、太陽電池や充電式電池は、多めに用意しておいたほうがよいでしょう。

太陽電池と充電式電池を組み合わせて、しっかりと実用になるシステムを作ることは、実は、現在でも先進的な研究テーマとされている面があります。

ラジオが鳴り続けるおもちゃとして企画していますが、なるべく本当に役に立つように、きちんと理屈立てて作っていきたいです。

充電・放電のルール--電池の種類によってまちまち

太陽電池と充電式電池を使って、ラジオをぶっ通しで鳴らし続けることを考えます。

太陽電池や充電式電池の量や、充電と放電を行うときのルールをよく考えないと、電池を使い尽くして止まってしまったり、充電しすぎて充電式電池の寿命を縮めたりします。

まずは、充電と放電をするときのルールを考えます。

明るいときはとにかく充電。暗いときは放電

最も簡単なルールです。次の回路図で容易に実現できます。

無制御な回路図

負荷に、充電式電池と太陽電池を並列につないでいます。

太陽電池の電圧が低下したときに、電流が逆流しないようにするために、ダイオードを入れています。

明るいときは、(太陽電池の電圧-ダイオードの電圧降下分)が充電式電池の起電力よりも高くなり、太陽電池から発電した電気が、充電式電池と負荷に送られます。

暗いときは、充電式電池の電圧が、(太陽電池の電圧-ダイオードの電圧降下分)よりも高くなり、充電式電池の電気が、負荷に送られます。

「なんだ、簡単じゃないか」と思われるかもしれません。ある程度までは、これでうまくいくようですが、このままでは充電式電池が早く劣化する傾向があります。

こちらの図のように、この方法は、過充電と過放電を起こしやすいという問題があります。

過充電・過放電

充電・放電を止める電圧を決めておく方法

太陽電池が電気を作っているときは充電し、暗いときは充電式電池から放電するというアイデアは、単純で分かりやすいですが、充電式電池にとっては、過充電や過放電などの過酷な状況におかれがちで、早くだめになる可能性があります。

次のことが実現できれば、もう少し充電式電池にやさしいシステムになりそうです。

次の回路で、充電や放電を、許可したり禁止したりできるようになります。

充電管理・放電管理を行う回路

スイッチの部分は、半導体素子を使ったりします。

充電式電池が、どんなときに満タンで、どんな時にからっぽかを、見分ける方法が分かれば、状況に応じてスイッチを操作して、充電式電池をより長持ちさせる制御ができるようになります。

充電式電池の状態を見分ける方法は、充電式電池の種類によって違います。

自動車に使われている鉛蓄電池では、電池の端子電圧を見ると、電池の状態が分かるようです。

こんなときは、充電と放電は、次のルールで管理できます。

端子電圧と容量が対応する場合

XとYの値は、電池の種類によって変わってきます。少しだけ、ヒステリシス特性を持たせたほうが、小刻みに充放電の許可・不許可が切り替わる現象を避けられるので、よいかもしれません。

このルールを実現したシステムは、CQ出版社の「トランジスタ技術」2005年9月号に例があります。

この方法は、鉛蓄電池を使う場合には役に立ちますが、乾電池のかわりによく使われる単3形のニッケル水素電池には、あまり向かないようです。

ニッケル水素電池の場合

最近普及が進んでいる、乾電池と同じ形の充電式電池の多くは、ニッケル水素電池です。

例えばこちらの「エネループ」(eneloop)は、いちど充電すると、長期間放置しても電気が減りにくい特長があり、使い捨ての乾電池のかわりに使えます。

エネループ電池

今回の作品では、このようなニッケル水素電池を使います。入手しやすいですし、自動車のバッテリーよりも軽く、正しく使えば比較的安全だからです。(この作品は、実験的なものですので、必ずしも安全ではありません。液漏れ、はれつなどにより、火災やけが、失明、死亡事故などの可能性もあります!試してみる場合は、ご自分の責任でお願いします。)

放電の終了判定は電圧でOK

電池を使うと、電気を消費するにつれて、少しずつ電圧が下がってきます。電気を使いきる頃には、電圧はかなり低くなります。

満タンの状態からニッケル水素電池を放電し続けると、電圧は次のようになります。

ニッケル水素電池の放電特性の模式図

電圧の下がり方は直線的ではなく、かなりくせがあるようです。詳しいデータはhttp://www.oct.zaq.ne.jp/i-garage/dimage/newbat.htmなどで見られますので、読んでみると面白いでしょう。

電池がからっぽになりかけているかは、電池の端子電圧から判断できます。例えば、1.0ボルトになったら、ほとんど電気が残っていないと判断できます。

ちなみに、放電をやめるときの充電式電池の電圧は、電池の寿命を考える上で、意味があります。

ほどよい電圧で放電を終わらせることが、大切です。

充電の終了判定はいろいろあります

ニッケル水素電池の充電で、充電が終わって電池が満タンになったかを判断する方法は、いろいろとあります。今回の作品では、太陽電池の電気で充電を行うため、充電電流が一定せず、断続的な充電となるかもしれないので、一般的な充電方法がそのまま当てはまるとは限らない点に注意が必要です。

一般的な、充電が終わったことを判断する方法を紹介します。

詳しいことは、電池応用ハンドブック(CQ出版社)に書いてありますので、読んでみると面白いと思います。

充電量累積計測システムを作るには

太陽電池を使った充電システムでは、充電した電流の量をコンピュータで集計して、累積量が特定の値に達したら充電完了とみなす方法が使えそうです。

充電を正しく行うためには、いろいろと考えておくべきことがあります。

太陽電池・充電式電池の必要な量は?

今回の作品は、コンセントから好きなだけ電気が得られるわけではなく、エネルギーは全て太陽に頼ります。

システムとしての、エネルギーの収支を考える必要があります。

太陽電池の量、充電式電池の量、負荷の大きさなどを考えます。

太陽電池の量。平均日照時間を考える

太陽電池で一日に得られる電気の量は、日によって変わります。夏のほうが冬よりも昼の時間が長いなど、季節によっても変わります。

とりあえず参考になる指標として、「平均日照時間」があります。天気や季節の問題を全て考えた上で、平均的に1日あたりで、太陽電池の定格出力何時間ぶんの出力が得られるかを示すものです。

CQ出版社の本「ガーデニングとホーム・セキュリティの電子工作入門」によると、日本の平均日照時間は、1日あたりで3.6から3.8時間とされているそうです。

充電式電池の充電は、電流の累積で考えるので、電流について考えると、今回の作品では、太陽電池の定格値は0.5Aです。毎日1.8Ahから1.9Ahくらいが期待できそうです。容量が小さめの単3形ニッケル水素電池を1回充電できる程度の量です。

負荷の大きさ。収入をふまえて考える

今回の作品では、ラジオを負荷に考えていますが、どれくらいの出力電流まで使えるのでしょうか。

支出が収入を上回ると、家計が成り立たないのと同じで、充電できる量の範囲内で消費を行う必要があります。

毎日600mAh程度消費することにすれば、平均の消費電流は25mAとなります。具体的にラジオの機種をあげれば、AIWAのCR-AS10などは、小型で消費電力も小さく、よいかもしれません。

ちなみに、ラジオに外部電源の端子があるとよいのですが、ない場合は本体基板にはんだづけして、電源コネクタを増設するかもしれません。

充電式電池の量。バンク数と総容量と雨の日の想定と

充電式電池は、夜間や雨の日など、太陽電池が働かない時は常に、負荷に電気を送ります。もしもずっと雨の日が続くなどして、太陽電池が使えない状態が続いたときに、どれくらい耐えられるかを考えると、必要な充電式電池の容量が分かるかもしれません。

消費電流が25mAであれば、1日で600mAh、2日で1200mAhになります。eneloop電池は1900mAhとあるので、およそ3.17日ぶんになります。

3つバンクがあるので、全部が充電完了状態であれば、9.5日程度は持つことになります。実際には常に全てのバンクがいっぱいになるわけではないので、もう少し短い時間しか持ちません。

充放電管理システムのアルゴリズム

明るいときは、充電式電池と負荷に電気を送り、暗いときは負荷から電気を取り出す動作を、マイコンのプログラムとして記述する必要があります。

充電式電池が3つのバンクに分かれているので、それぞれのバンクで過充電や過放電を避け、かつ、充電と放電をこまめにくり返さないように制御する必要があります。

充放電を管理するシステムとしては、充電式電池を全て使いきった場合のことも考えておく必要があります。

放電をやめて、マイコンを待機状態にして待つような仕組みが必要になります。明るくなったら充電をしつつ、負荷への電力供給を始められるとよいでしょう。

電池を完全に使い尽くして、マイコンまで止まってしまったら、明るいときにリセットボタンを操作するしかなくなります。こだわれば、この部分も自動化できるかもしれないですが、何事にも限界があるので、妥協することにします。(BOD「ブラウンアウトディテクト」の仕組みを作り、マイコンの電源電圧が一定以下になったときは自動的にリセットボタンを押し続けるような制御を行えば、自動化できるようです。)

アルゴリズムをフローチャートに書いて、思ったとおりに動くかをよく考える必要があります。

天気次第の動作なので評価が難しい?

今回の作品は、天気次第のシステムです。

天気の移り変わりに応じて、充電や放電の管理が正しく行われるかを検証する必要があります。

ずっと晴れていれば、電気の収支がよくて黒字経営かもしれませんが、いったん雨が降ると、とたんに赤字になります。

天気が変わるのをずっと待っているわけにもいかないので、太陽電池のかわりに電源装置を接続して充電し続けたり、太陽電池を外して放電し続けたりして、ある程度のテストを行うことになります。

それでうまくいったら、実際の環境に出して、充放電が繰り返される様子を見ることになります。

充電式電池を交換せずに、どれくらい長く動作するか、興味があります。

エネルギーの収支の様子を、LEDなどでモニターできると面白いと思います。

ラジオ

実験用に、ラジオを買ってきました。AIWA製のCR-AS10型で、880円しました。炎天下で長時間連続動作する過酷な用途ですが、どれくらいがんばってくれるかなあ。

AMラジオCR-AS10

AMラジオだけが聞ける、最もベーシックなモデルで、値段も比較的安いです。音質はそれほどよくなく、電力会社からの電気があるなら、ふつうのラジカセでラジオを聞いたほうが、よい音がします。

単3形電池2本で使う機種ですが、eneloop電池を電池ボックスに入れると、電池のプラス端子が電池ボックスの電極に届かず、使えないというワナがあって、びっくりしました。いまいち、品質がよくありません。Panasonic製にしたほうがよかったかもしれません。実験用と割りきって、さっそくACアダプタ接続用の改造をしました。

AMラジオCR-AS10裏面

改造したので、保証は無効になってしまいました。改造をすると、発火や火災などの事故が起こりやすくなります。改造は、やらないほうが安全です。

ちなみに、このラジオのよいところは、消費電流が小さいことだと分かりました。イヤホンで使う場合は数mAしか消費しません。スピーカーを鳴らすときも、音量を下げれば消費電流が10mAを下回るときもあるようです。太陽電池での使用に適した機種だと言えるかもしれません。


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