死のガラスが眠る----高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター


真上から

バスの窓から大きな赤い煙突が2本見えてからまもなくして、「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」に到着した。

建物は、白い壁に青と緑の線が縦に描かれていて、近づいてみると、見上げるほど高い。

この建物の中には、「高レベル放射性廃棄物」(以下、高レベル廃棄物と呼ぶ)が保管されている。

建物の中では、名札を付けなければならない。この建物には、あらかじめ申し込んで名札を作ってもらった人しか入れないことになっているのだ。私たちの名札は、引率の先生方が申し込んで作られたものだ。

広島市の団体らしき名札も見られた。被爆地だけに核技術に対する関心も高いのだろう。

建物に入るとすぐ、高レベル廃棄物を入れるステンレス容器「キャニスター」が飾ってあった。もちろん飾り物だから、中に廃棄物は入っていない。キャニスターは、分銅を巨大化させたような形で、直径40センチ、高さ130センチ程の円筒形をしている。てっぺんには、いくばくかの数字がドリルで掘られていた。

これから、高レベル廃棄物が保管されている所の真上まで行くという。

高レベル廃棄物がどのような物なのかについて、ここで説明しよう。

原子力発電所で燃やされた燃料は、「再処理工場」で、ウラン、プルトニウム、燃えカス(核分裂生成物)に分けられる。

この燃えカスは、原爆で言えば死の灰にあたるもので、強烈な放射線を何万年、何十万年といった期間出し続ける。放射線のレベルは、無防備で近づけばすぐに死が待っているほど強烈なものだ。

高レベル廃棄物は、この燃えカスを溶けたガラスと混ぜて固め、ステンレスの容器「キャニスター」に密封したものだ。

しばらく歩くと、鉄道の自動改札を思わせる場所に出た。放射線測定器が並んでいて、ここを通らないと外に出られないらしい。私はここで、放射線の累積量計を受け取った。この機械は銀色で、小型ラジオほどの大きさの直方体だ。放射線の一種である「ガンマ線」を「0.10ミリシーベルト」以上受け取ると警報音を出す。「0.10ミリシーベルト」は、地球上で自然から受ける放射線量1年分の、およそ10分の1にあたる量だ。

床や壁が緑色をしていることに気が付いた。聞くと「ここは安全なところだから緑に塗ってあります。放射線が強いところは黄色、さらに強いところは赤く塗ってあります」という。建物はグリーンゾーン、イエローゾーン、レッドゾーンに分けられているのだ。

扉を越えるとまた扉があった。ここで両方の扉が閉められ、しばらく止まる。外部に比べ、内部は気圧が低くしてあるからだという。こうすることで、放射能を帯びた中の空気は、外に出にくくなる。

さらに進むと、大きな部屋に出た。ここが高レベル廃棄物の保管場所だ。オレンジ色のマンホールのようなふたが、一面に並んでいる。向こうには大きなクレーンのような機械が止まっていた。床や壁の色は、依然として緑のままだった。

オレンジのふたには、「JNFL」と会社名のマークのついたものと、何もついていないものとがあった。

高レベル廃棄物は、マークがついたふたの真下にすでに入っているという。マークの真上まで行ってみた。

ふたの重さは500キロ以上で、人間が持ち上げることはできない。従って、廃棄物の出し入れは全てクレーンが行っている。廃棄物の入ったキャニスターはまず、部屋の奥に見えたクレーンにより持ち上げられ、取り込まれる。次にクレーンは部屋中を動きまわって目的の穴のふたを外す。最後に、穴の中にキャニスターを入れ、再びふたをする。よく見ると、クレーンが動くためのレールとギザギザ付きレールとが、部屋の左右にあった。

高レベル廃棄物からは熱が出ているため、冷却のため空気がキャニスターのわきを抜ける。空気の温度は70度まで上がりうるというから、燃えカスとはいえまだくすぶっていることが分かる。温度が上がった空気は、建物に入る前に見た2本の煙突から外気に放出される。煙突が2本あるところが興味深い。冷却空気は自然循環している。空気の循環にポンプが不要なため、トラブルが起こりにくいという。

この施設は、実は高レベル廃棄物を最終的に処分する所ではない。高レベル廃棄物は将来、どこかの山に深い穴を掘って、そこに埋めてしまうことになっている。しかし、発生したばかりの廃棄物は、発熱が大きいため30年から50年間冷却する必要がある。この施設は、高レベル廃棄物処分の、ほんの入口の部分の役目を果たすに過ぎないのだ。

ここ、青森県は、青森が高レベル廃棄物の最終処分地となることに反対しており、「青森県を、高レベル廃棄物の最終処分地にしないこと」との約束もある。50年後には、これらの廃棄物は全て、山に掘られた深い穴に作られる最終処分地に送られなければならない。しかし、肝心の最終処分地は立地のめどがたっておらず、50年以内に完成するか不安である。

この管理センターの建物は、少なくとも50年は使えるようにできているというが、これから先、廃棄物の行き場がないのは気になる。

ところで、高レベル廃棄物を作る再処理工場は、日本にはまだ完成していない。日本で発生した使用済み燃料は、国内では処理できないので、フランスなど海外の再処理工場に船で送られている。そして、処理を終えてできた高レベル廃棄物などは、再び船に乗って日本に帰ってくる。そのため、この施設にある高レベル廃棄物は、全て海外で作られたものだ。

近くで建設中の再処理工場で作られる予定の高レベル廃棄物は、別の建物で保管されるという。だから、ここは輸入品専用の保管場所である。

少し意地悪な質問をしてみた。「高レベル廃棄物のガラス固化体に、不良品があったらどうしますか」。答は、「そうなってしまうと、こちらで直すのは無理だから、作った所に送り返すでしょう。しかし、ここまで届いた廃棄物は、輸送段階で異常がなかったものに限られるから、今になって不良品が見つかる可能性は低いです」。

だから、運搬中や管理中にキャニスターを壊すことは、絶対に許されない。現在国内には、元通りに詰め直す技術がないからだ。このあたりは、詰め直しができる低レベル廃棄物の管理と比べてきついところだろう。

2003年になれば、ここの再処理工場が完成する。これにより国内にも、高レベル廃棄物をキャニスターに詰める技術と施設が完成する。そのことは一方で、ガラス固化体に不良品が出ると、国内で再度詰め直さなければならなくなることを意味する。高レベル廃棄物の詰め直しには、困難が予想されるため、不良品の発生は極力抑えなければならない。

失敗が許されない職場というのは、建設現場など他にもいろいろあるが、この施設は特に責任が重い場所だ。なぜなら、自分の命のみならず青森県民の命がかかっているからだ。「僕だったら、ここで働くのはちょっといやだな」と思った。

かなりの間この部屋にいたが、放射線の累積量計の表示は0.00ミリシーベルトのままだった。

帰りに、自動改札のような所で放射線の測定を受けた。幸い全員「異常なし」の判定が出て、外へ出られた。何だかほっとした。


-->再処理工場建設現場
<--ウラン濃縮工場

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